
あらすじ
この物語は、小学5年生の男の子が母親を癌で亡くすところから始まります。母の死をきっかけに、次々と不幸な出来事が降りかかります。母と親しかった友人の突然の死、そして父親の不可解な変化。少年を取り巻く環境は徐々に暗い影を落としていきます。
この作品の最大の魅力は、読者の推理や予想が何度も覆される構成にあります。前半、中盤、後半と物語が進むにつれて、「きっとこうだろう」という自分なりの解釈が次々と崩されていく感覚は実にスリリングでした。
読みながら、いかに自分が登場人物たちを一面的に決めつけていたかを思い知らされました。先入観に囚われず、最後まで物語に身を委ねることの大切さを改めて感じた作品です。
登場人物たちの「人間としてのどうしようもない部分」が丁寧に描かれているのも印象的でした。完璧ではない、むしろ欠陥を抱えた人物たちだからこそ、リアリティがあり、感情移入してしまいます。「自分だったらどうするだろう」と何度も考えさせられました。
この作品は従来のミステリー小説とは一線を画しています。名探偵は登場しません。あくまで小学5年生の男の子の視点で物語が進行し、彼の純粋で時に拙い思考過程がメインとなっています。
しかし、その幼い視点だからこそ見えてくる真実があります。大人では見過ごしてしまうような些細な違和感を、子どもならではの素直な感性で捉えていく過程は見事でした。「自分がこの年齢の時、ここまで深く考えることができただろうか」と、読みながら自分の幼少期を振り返ってしまいました。
結末はスッキリとした読後感を残してくれました。複雑に絡み合った謎が解けていく爽快感と、登場人物たちの心の傷が癒される温かさが印象に残っています。
おすすめしたい読者
・自分の推理や予想を何度も覆されたい方
・子どもの視点から描かれる独特なミステリーを楽しみたい方
・人間の複雑さや心の闇を丁寧に描いた作品を読みたい方
最後に、この作品を読む前に試していただきたいことがあります。
お金の絵を描いてみてください。
あなたが描いたお金は、実物と比べてどうでしたか?
この答えは、ぜひ小説を読んで確かめてみてください。きっと作者が込めた深いメッセージを理解できるはずです。
『シャドウ』は、ただのミステリー小説を超えた、人間の心の奥深さを描いた傑作です。道尾秀介氏の巧みな筆致に、最後まで翻弄されることをお約束します。

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